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産業保健師とは?仕事内容・役割・年収から転職に必要な資格・スキルまで

記事掲載日:2024/05/15

産業保健師とは?仕事内容・役割・年収から転職に必要な資格・スキルまで

「産業保健師」は、企業で働く従業員の健康を支える重要な存在。保健師や看護師の資格を持っている場合、産業保健師の働き方に興味がある方も多いでしょう。この記事では、産業保健師の主な仕事内容や求められる資格・能力についてまとめました。将来性や向いている人の特徴も紹介するので、産業保健師を目指す方はぜひご覧ください。

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「産業保健師」とは?

産業保健師とは、企業で働く従業員の健康管理や保健指導などを行う保健師

産業保健師とは、一般企業で働く従業員の健康管理・維持、保健指導を担当する保健師です。企業で働くため、「産業保健師」と呼ばれています。従業員個々を取り巻く環境を理解し、働き方や通勤、年齢、家族も踏まえて一人ひとりに応じたサポートを提供します。

また、従業員が安全かつ安心して働けるように、安全衛生管理体制を構築・実践するのも産業保健師の仕事です。潜在的な健康課題やニーズを分析して施策を行い、従業員が心身ともに健康に働ける職場づくりを進めていきます。

【基礎知識】保健師とは

保健師とは、健康を守り、病気にならないよう予防のためのサポートを行う仕事

医師や看護師が病気やけがをした人を対象にケアをするのに対し、保健師は「病気・けがを未然に防ぐ」ため、治療が必要な人だけでなく健康な人を対象にサポートを行います

また保健師は、企業だけでなく学校や自治体などのさまざまな場所で活動する職業です。各職場において、メンタルや身体的な不調を未然に防止するために、保健指導や検査、教育などを通して総合的なサポートを提供します。

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産業保健師と他の保健師の違い

活動領域の例 役割
産業保健師 特定の企業の従業員が安全に働ける環境づくりをサポートし、従業員に対して適切な保健サービスを提供する。
行政保健師 保健所など自治体の公的機関に勤務し、地域の人々に保健サービスを提供する。
学校保健師 特定の学校の生徒が安全に過ごせる環境づくりをサポートし、生徒に対して適切な保健サービスを提供する。
病院保健師 禁煙外来や保健指導を受ける患者さまに対して保健サービスを提供する。
病院職員に対して保健サービスを提供することもある。

保健師が活躍する場所は、企業以外にもさまざまです。保健サービスを提供するという役割は同じですが、活動する場所によって対象となる人が異なります

行政保健師は保健所や各自治体の保健センターなどで働く保健師です。厚生労働省の調査によれば全国の保健師数60,299人のうち、自治体の機関に勤務するのは43,258人であり、ほとんどが行政保健師として働いています。

一方、産業保健師は4,201人と1割にも満たず、学校保健師や病院保健師と並んであまり数は多くありません。

※参考:厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例 統計表 隔年報 就業保健師数(総数),雇用形態・就業場所・都道府県別

産業保健師と産業医の違い

産業保健師 産業医
配置の義務 配置義務なし
※健康保持に努める必要がある労働者に対しては、医師もしくは保健師による保健指導を受けさせるように努めなければならない。
※従業員数50人未満の事業所では、医師または保健師による労働者の健康管理を実施するように努めなければならない。
配置義務あり
従業員数50人以上の事業所: 1人以上
従業員数3,001人以上の事業所: 2人以上
必要な資格 看護師、保健師の免許 医師の資格があり、厚生労働省が定める要件(※)を満たす人
※厚生労働大臣が指定する研修を修了している
※産業医の養成課程を修めて卒業し、実習を履修している など
役割・
仕事内容
企業で働く従業員の健康管理・維持、保健指導
従業員が安全かつ安心して働ける安全衛生管理体制の構築・実践など
健康診断や面接指導、健康教育、労働衛生教育、従業員の健康障害の原因調査・再発防止措置の考案と実施など

産業保健師の配置は、どの事業所に対しても義務づけられてはいません。一方、産業医は従業員数50人以上の事業所で1人以上配置することが必要です。

また、産業保健師は保健師の免許があれば就業できますが、産業医は医師の資格に加え、特定の研修や養成課程の卒業などが求められます。

異なる点の多い産業保健師・産業医ですが、役割や仕事内容は類似する点が多いです。従業員の健康管理や健康教育、安全に働ける職場づくりの考案・実施などを行います

産業保健師が担う役割・主な仕事内容

産業保健師が担う役割・主な仕事内容
  • 健康診断の準備・実施・事後措置
  • 従業員の健康相談・保健指導・カウンセリング
  • ストレスチェックの実施
  • 衛生委員会への参加
  • 健康に関する講演会・セミナーの実施
  • けがや病気の応急措置
  • 産業保健師の役割・仕事内容は多岐にわたります。主な役割と仕事内容について見ていきましょう。

    健康診断の準備・実施・事後措置

    産業保健師は、従業員を対象とした健康診断の準備から実施、実施後の保健指導まで一貫したサポートを提供します。また、関連する医療機関と連携をとって日程調整をしたり、健康診断の項目別に対象者をリストアップしたりするのも産業保健師の仕事です。

    健康診断の結果により、追加検査が必要と判断される従業員に対しては、個別に対応・面談を行います

    従業員の健康相談・保健指導・カウンセリング

    従業員の病気やけがを未然に防ぎ、健康を維持する活動も産業保健師の役割です。従業員一人ひとりが置かれている環境を把握し、健康相談や保健指導を行います

    生活習慣病などの身体的な病気に加え、メンタルヘルスの不調といった精神的な病気のサポートも担当。自発的に相談を希望する人だけでなく、休職中の人や長時間労働に従事している人に対しても面談やカウンセリングを実施します。

    ストレスチェックの実施

    ストレスチェックは、従業員のストレスの度合いや状況を把握するために実施される検査です。2015年12月から、従業員50人以上の事業所に実施が義務づけられました。

    産業保健師は従業員に対してストレスチェックを行い、結果を分析。過度のストレス状態にあると判断された従業員には、面談やサポートを通して状況の改善に努めます

    衛生委員会への参加

    衛生委員会は、従業員の健康障害の防止を目的とした調査・審議機関です。労働安全衛生法では、常時50人以上の従業員を使用する事業所での設置と、月1回以上の開催を義務づけています。

    産業保健師は産業医などと連携を図り、衛生委員会に参加して関連資料の作成や企画、立案を担当します。

    健康に関する講演会・セミナーの実施

    産業保健師は、従業員に対して健康増進や疾病予防を働きかけるために、講演会やセミナーを開催することもあります。健康に対する正しい知識を持ってもらうだけでなく、健康への関心を高めることも講演会・セミナーの目的です。

    けがや病気の応急処置

    産業保健師は、事業所などで病気やけがをした従業員に対して、応急処置を実施することもあります。処置の内容によっては、産業医や外部の医療機関との連携が必要な場合もあるでしょう。

    高年齢者を採用する職場が増えているなか、産業保健師が救急対応をするケースも増えると予想されます。スムーズに対応するためにも、産業保健師は必要に応じて研修を受け、実践的に学ぶことが必要です。

    産業保健師の働き方

    産業保健師の勤務時間は、その企業で働く他の従業員とほとんど同じです。一般的な働き方や休日、雇用形態を紹介します。

    【スケジュール例】産業保健師の1日の流れ

    8:30 出勤
    9:00〜12:00 朝礼
    メール対応
    相談や面談の対応 など
    12:00〜13:00 昼休憩
    13:00〜17:30 相談や面談の対応
    資料作成
    打ち合わせ など
    18:00 退勤

    出勤時間や業務内容は勤務先によって異なります。就業する企業の始業・終業時刻と同じことが多いです。

    基本的にはデスクワークですが、健康診断やストレスチェック、カウンセリングを実施する日や衛生委員会へ参加する日は、社内での移動が増えます

    産業保健師の休日

    産業保健師の休日は、企業の休日と同じことが一般的です。土日祝日が休みの企業であれば、産業保健師も土日祝日が休みとなる傾向にあります。夜勤や残業はほとんどないため、規則正しく働きたい方も働きやすいでしょう。

    産業保健師の雇用形態

    産業保健師の雇用形態はさまざまです。正社員として雇用されるケースもありますが、時間や曜日が限られ、パートとして働くケースもあります

    また、健康保険組合に所属、あるいは産業保健師を募集する派遣会社に登録して、各企業に派遣されるケースもあるでしょう。

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    産業保健師になるには?【必要な資格・能力】

    産業保健師になるには?【必要な資格・能力】

    産業保健師になるために必要な資格は保健師のみです。保健師の国家試験を受験する方法や、産業保健師に求められる能力・スキルについて説明します。

    産業保健師として働くために必要な資格

    国家資格である「保健師免許」と「看護師免許」が必要

    産業保健師として働きたい場合は、保健師国家試験に合格することが必要です。保健師国家試験を受験するには、先に看護師国家試験に合格している必要があります。

    ただし、看護師免許取得のために卒業した学校・課程によっては、保健師国家試験を受験するための条件が異なるので注意が必要です。

    【保健師国家試験を受ける方法】

    看護系大学(4年制・保健師選択課程) 保健師国家試験を受ける
    看護系大学・短大・専門学校(3〜4年制) 以下のいずれかを経て、保健師国家試験を受ける
    1.看護系大学院(2年)
    2.看護大学専攻科・別科、看護短期大学専攻科、保健師養成所(1年)

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    産業保健師に求められる能力・スキル

  • コミュニケーションスキル
  • 傾聴・カウンセリング能力
  • 事務処理能力・PCスキル
  • コミュニケーションスキル

    産業保健師として働くには、業務を円滑に進めるためのコミュニケーションスキルが不可欠です。

    産業保健師は、保健指導を行うために従業員と細やかなコミュニケーションをとることが必要。また、健康診断やストレスチェックなどを滞りなく実施するには、産業医や医療機関など多くの人々との密接な連携が求められます

    傾聴・カウンセリング能力

    産業保健師には、傾聴能力やカウンセリング能力も求められます。ストレスを抱えている人や健康に不安がある人の相談にのるケースも多いためです。

    従業員がより健康に働くためにも、産業保健師は悩みや不安に寄り添い、適切なアドバイスやサポートにつなげるスキルが求められます

    事務処理能力・PCスキル

    産業保健師は、従業員の健康に対する意識を高めるために、配布資料やセミナーの原稿などを作成することも求められます。

    また、健康診断やストレスチェックなどの日程調整や、スケジュールの周知などの作業も必要です。いずれの作業にも基本的な事務処理能力とPCスキルが欠かせません

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    産業保健師が向いているのはこんな人!

  • 自ら考えて積極的に行動できる人
  • 課題を解決するために進んで提案できる人
  • 相手の気持ちに寄り添い深く傾聴できる人
  • コミュニケーションを取るのが得意な人
  • 産業保健師は、企業内で1人ということも少なくありません。そのため、自分で考えて能動的に行動を起こし、課題解決に向けて提案できる人が向いています。不安や悩みを抱える人と話す機会が多いことから、相手の気持ちに寄り添えることも大切な要素です。

    また、分け隔てなく誰とも円滑にコミュニケーションをとれることも、さまざまな立場の人々と関わる産業保健師には必要な要素でしょう。

    産業保健師の将来性・今後のニーズ

    産業保健師の将来性・今後のニーズ

    厚生労働省の資料(※)によれば、精神障害による労災の請求件数・認定件数は増加傾向にあります。令和3年の調査では、仕事について強いストレスを抱えている人は53.3%に上ると報告されました。ストレスの原因としては、仕事の量や質、対人関係などが挙げられています。

    このような背景から、従業員の健康を身体面・精神面の両方で支える産業保健師は、今後ますますニーズが高まる仕事と考えられるでしょう。従業員の健康を職場から支えるためにも、産業保健師は欠かせない重要な存在です。

    参考:厚生労働省「産業保健の現状と課題に関する参考資料

    産業保健師に関するよくある質問

    産業保健師に関してよくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にして、疑問解消に活かしてください。

    Q.産業保健師の年収は?

    A.産業保健師を含む保健師全体で見た場合、平均年収は約451万円です。

    産業保健師の年収は、所属する企業や雇用形態によって変わります。参考までに、産業保健師だけの年収データはありませんが、保健師全体の平均年収は約451万円です。企業規模1,000人以上の事業所の場合、保健師全体の平均年収は約465万円。産業保健師は比較的大規模の企業に配置される傾向にあるため、一般的な保健師よりも給与水準が高い場合もあります。

    Q.産業保健師の未経験者向けの求人はある?

    A.多くはありませんが、未経験者向けの求人もあります。

    産業保健師は、経験者を優遇する求人が多いです。とくに産業保健師としての実務経験や、他の職場での保健師の経験は重宝されます。産業保健師を目指す前に、保健師としてある程度は実務経験を積んでおきましょう。

    Q.産業保健師に転職するときに、有利に働く資格やスキルは?

    A.産業カウンセラーや第一種衛生管理者免許などの資格があると、有利に働くこともあります。

    産業保健師は、保健師の免許があれば就業できる仕事です。しかし、次の資格やスキル・経験があると、産業保健師として採用されやすくなります。とくに保健師や看護師としての実務経験・臨床経験は強みです。

    【産業保健師として働く際に役立つ資格・スキル】

    資格 スキル・経験
  • 産業カウンセラー
  • メンタルヘルス・マネジメント検定
  • 第一種衛生管理者免許
  • 保健師の実務経験
  • 看護師の臨床経験
  • Q.産業保健師のやりがいは?

    A.従業員に寄り添ってサポートできること、健康や安全の面から企業を変革できることなどが挙げられます。

    産業保健師は不調を抱える従業員に寄り添い、サポートできる仕事です。保健師の働きかけがきっかけとなり、従業員の行動に変化が見られたときはやりがいを感じるでしょう

    また、健康や安全の面から企業制度や環境を変革できることも、大きなやりがいにつながります

    Q.産業保健師の求人倍率は高い?

    A.募集に対して就業希望者が多いため、求人倍率は高めといわれています。

    産業保健師はひとつの企業に1人程度の狭き門のため、求人倍率は高めといわれています。自治体で働く行政保健師と比べると、産業保健師が就業できる企業が少ないです。また、比較的離職が発生しにくいことも、高い求人倍率の一因と考えられます。

    従業員の健康を支える産業保健師として働こう

    産業保健師は、企業において従業員の健康を支える仕事です。医療や看護、公衆衛生などの幅広い知識・スキルが問われます。自身のスキルやサポートにより従業員の健康増進につなげられたとき、やりがいを感じられるでしょう。夜勤や残業も基本的にはないため、働きやすいのも魅力。行政保健師と比べると求人数が少ないですが、ぜひ目指してみてはいかがでしょうか。

    ナースステップでは、保健師や看護師のためのお役立ち情報を豊富に掲載。医療業界の専任コンサルタントが、一人ひとりのお悩みに寄り添って転職をサポートいたします。やりがいを感じながら産業保健師として働きたいとお考えの方は、ぜひお気軽にナースステップにご相談ください。

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